飽きずにエッセイ2005年9月下旬号
「子どもは国の宝、でよいのか?!」その1
戦前の雑誌『戰線文庫』という、ほとんどだれも知らない"亡霊"のような資料を研究していると、今の日本と日本人に対し、
いろいろと心配したくなることが多い。
先日の新聞投書欄に、あるお祖母さん(61歳)が、保育園児の孫(4歳と2歳)の送り迎えについて書いていた。
それは「私の至福の時間。/今、孫が私の宝」だそうだ。もう一人ほしいという娘は働いているため、「国の子ども支援を受けてガンバッテほしい」とある。
ここまでは何の変哲もない微笑ましい光景といえるが、お終いの言葉に「?」がついた。「ババもガンバルから。そして『国の宝』に成長することを楽しみにしている」とあるではないか。
見ようによっては、「私の宝」と「国の宝」は見事な対語表現といえるが、「国の宝」とは重た過ぎる、軽々に使うべき言葉ではないはずだ。
たしかに、昨年11月18日、中山成彬文科相は、大臣のほんねとーく『子どもは国の宝』で「社会全体で、自分の子どもも他人の子どもも区別なく、
暖かく、かつ厳しく守り育てる風潮になってほしいと思います。子どもは社会の宝、国の宝。
子どもたちがこの世に生まれてきたことの有り難さを自覚し、かけがえのない自分の命と同様、
他人の命も大切にすることを教えていきたいと思います」と言ったそうだが、自民党が圧勝した現在、
憲法を改正して徴兵制でも敷かれれば、"国の宝"はいつ、戦場に駆り出されるか分からない。
振り返ってみよう。「生めよ殖やせよ国のため」という言葉は昭和14年、厚生省が発表した「結婚十訓」の10番目にある。
その翌年、10人以上の子どもをもつ親は「優良子宝隊」として表彰されたように、兵士"予備軍"の増強が急務だったこと。
さらにその翌16年12月8日、日本海軍が真珠湾攻撃をした折、突撃した10人のうち1人は捕虜となり9人が死に、
海軍は翌17年3月になって、ようやく"九軍神"として発表…。("軍神"となれば、晴れて"靖国"に祀られるのですね!!)
一方、学童集団疎開が行われたのは終戦1年前の8月4日で、上野を出発した第一陣198人の疎開先は群馬県妙義町だった。
また、日光金谷ホテルには学習院初等科の5年生と3年生のアルバムが残っているそうだ。疎開したのは同年8月28日のことで、
5年生に皇太子(現天皇)、3年生にはその弟義宮がいたという。
こういう資料もある。「かつて、文部省は、サイパン島の陥落が迫った当時、本土空襲をおそれ、
「人的資源の保護」を目的に全国13都市の学童を地方に疎開させました。横浜においては、昭和19年夏、
市内から67,000人ほどの学童が親元を離れ、箱根や小田原などに移され、寺社や旅館に分宿しました」
(HP「学童疎開報告集」神奈川県立公文書館だより・第6号・平成12年3月15日)。
「子どもは国の宝、でよいのか?!」その2
先の九軍神と子どもについて、『戰線文庫』にこんな話が載っている。
「未来の軍神養成(群馬県)…高崎市北国民学校の石橋先生は、特別攻撃隊九軍神の功績に感激し、此程同校先生数名と共に、
特に実地の海洋講習を得て帰り、海のない山国の県下児童に海国魂を根強く吹き込んで
『第二の岩佐中佐を、未来の軍神を』養成する目的から海に憧れの全生徒を集めて毎日九軍神の講話から手旗信号や棒術訓練を行つてゐますが
生徒一同もまた元気一杯に『我こそ未来の軍神』と猛訓練を行つてゐます」(「戦捷の夏・銃後だより」…『戰線文庫』昭和17年7月号)。
この石橋先生に限らず、その当時、日本国中?の人々が、"国のため""天皇のため"に死ぬこと、そして靖国神社に祀られることが、
最大の喜び?という雰囲気にあった。
一方、「生めよ殖やせよ」で生まれた多くの国民が、戦場から生きて帰れば、それもまた良しであったが、現実はどうであったか。
「戦前 引きずる軍人恩給/元大将と二等兵の格差5.7倍/命じたものほど多くもらえるとは」(東京05・08・29)によれば、
今年度の予算から見ると、軍人恩給の受給者は遺族を含め118万人、総額9,680億円(他に遺族年金が4万人弱で、総額520億円)。
軍人恩給の受給者の72%以上が遺族で、平均年齢は83・5歳という。
個々の受給額をみると、階級差による算定で最高額は元大佐の285万円、最低は59万3千円という。まだ細かい計算があって、
月の受給額(平均)は68,000円、これを国民年金(52,000円)と比較すると、3割も高いそうだ(もっとも、軍法会議で懲役2年を越す場合は、
受給対象から外されたという)。
つまり、戦後60年、"還暦"だなどと浮かれている一方で、負け戦でもずっと戦争の"恩恵"に与っている日本人が、
かなり存在するという事実がここにある。やっぱり、軍人になるのがよいと思う人がいるだろう?!
しかし、自民党にとって、軍恩連や遺族会は大きな票田、いくら国家予算を使っても大事にするわけだ。
反対に、少子化対策や青少年対策が疎かなのは、選挙権のない赤ん坊や子どもは票にならないからである。
政治家が子どもは「国の宝」だなんて言い出したとき、戦争ができる国になっていると悟っても、もう遅いのである。
もう一度いうが、これらの恩恵に浴するのは、一部の高級武官たち、つまり職業軍人で、多くの名もない"民草"あるいは"雑兵"たちは、
生きながらえても、階級差に泣いているという現実を忘れてはならない。
指をくわえて、ヨン様や小泉チルドレンを眺めるよりも、二度と戦争の起こらない世の中を願い、
そして子でも孫でも永久に"私の宝"であることを願うこと、そのための行動を起こすことが大事であろう、諸嬢どの。
「賛成か。反対か。」
このたびの衆院選で、コイズミ自民党のマニフェスト(政権公約)は、120項目もあって、郵政民営化はその120分の1に過ぎないのだが、
だれしも認めるように、ほとんど他のことにはふれず、「改革を止めるな。/自民党」一本やりの圧勝だった。
その裏付けとして、ここに、私としては顔をだいだい色からさらに赤らめながら、臆面もなく新聞広告を並べてみよう。
9月5日付朝刊第1面…「郵政民営化は、あらゆる改革の本丸です。/今、あなたに問いたい。/賛成か。反対か。」
9月7日付朝刊第1面…「税金のムダ遣いを断ち、財政の健全化につながる郵政民営化に/賛成か。反対か。」
9月9日付朝刊第27面…「年金も介護も医療も持続可能にする郵政民営化に/賛成か。反対か。」
9月10日付朝刊第1面…「民間の力を生かし、効率的な小さな政府を目指す郵政民営化に/賛成か。反対か。」
9月11日付朝刊第1面…「今日、/賛成か。反対か。」
これら広告が載っているのは、いつもは政府広報が使う"指定席"で、1面左下のタテ10センチ×ヨコ5センチという狭いスペースに「麻薬撲滅」とか
「青少年健全育成月間」とか「10月1日は国勢調査の日です」などと、たぶん何割か安い料金で広告を出すところである。
ある人に言わせると、これら広告を含め、閉塞感漂う国民を前に、クールビズ、ノーネクタイで、ワイシャツの袖をまくりあげ、
「古い上着を脱げ捨てて、変わります。まず郵政から…」などという演出を請け負ったPR会社は、ネライをB層に定めていたという。
いわく、"主婦層やIQの低い人たち"向けだったんだそうな。
今更でもないが、"郵政民営化"は、「あらゆる改革の本丸」なのか、「財政の健全化につながる」のか、
「年金も介護も医療も持続可能に」なるのか、「効率的な小さな政府を目指す」のかどうか、さっぱり分からないうちに、
「今日!=凶」と出た日には、もうたいがい思考停止だったんでしょうな、みなさんは!?
蛇足ついでに言えば、民営化大反対の急先鋒、特定郵便局長OBの組織「大樹」は、たぶん「寄らば大樹」から命名したもので、
それは自民党ではなかったのか?!
(以上、2005年9月28日までの執筆)
kenha@wj8.so-net.ne.jp